この詩はわりとストレートで好き

胸のうちを言葉にして彼女に伝えたので、
ぼくの頬はかっかと燃えている、
唇がまだ震えている、
ぼくの口から出たのは、
しどろもどろの、呂律のまわらない、
咄嗟に口をついて出た、うわずった言葉。
ぼくが口にしたのはまるで体をなしてない言葉。
ああ、それがまだ、
帰宅途中のぼくの頬の赤さにあらわれている。
ぼくは雪に視線を落としたまま、
何軒もの家やいくつもの垣や
何本もの樹木のそばを行き過ぎる、
雪は垣や樹木や家を白く飾っている。
ぼくは視線を雪に落としたまま、行き過ぎる、
ぼくの頬は、あのときの取り乱した文句を思い出して、
今でもぽっと赤らんでいる。

――「帰宅」

 小品が軽やかでサービス精神があって自己批評的であるせいか、ローベルト・ヴァルザーの詩は深刻そうに見えて、でも全然そうでもない印象を受ける。テンパって告白して、でその帰りの詩なんだろうと思うけど、失恋の詩だとは断定しづらい雰囲気がありませんか。切迫感がないんだよねえ。逆の感想を持つ人もいるとは思うんですが、ぼくはそこが好きなんです。ただの印象でしかないのですが。
 今日はわりと世間や周囲への愚痴や文句がないので、本格的なヴァルザーキャンペーンでもしようかなと思い立ちましたが、たぶんもうしません。
 http://www.yomiuri.co.jp/tabi/world/abroad/20040614sc22.htm